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旭川地方裁判所 昭和41年(わ)18号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】(本件にいたる経緯)

政府は、昭和四〇年一〇月五日招集された第五〇回臨時国会に対し、日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約、日本国と大韓民国との間に関する漁業協定、財産・請求権問題処理および経済協力協定、在日韓国人の法定地位・待遇協定、文化財および文化協力協定(以下単に日韓条約と総称する。)の締結について承認を求める案件と右諸協定の実施に伴う法律案を提出した。

被告人が所属する国鉄労働組合(国労)は、すでに、昭和四〇年八月開催の国労全国大会において、日韓条約の締結に反対する方針を決定し、右条約等の前記国会における審議につれて、国労が加盟する日本労働組合総評議会(総評)さん下の各労働組合等とともに、街頭におけるデモンストレーション、国会請願、抗議や署名運動等の反対運動を各地で展開してきたが、昭和四〇年一〇月二八、二九の両日第七二回中央委員会を開催し、右反対運動をさらに強化し、同年一一月一三日以降、情勢の成熟にともない、決定的な段階には主要幹線の時限ストライキを決行する旨の特別声明を採択した。

一方前記国会においては、「日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会」が設置され、同年一〇月二六日から、同委員会において、日韓条約および前記法律案が審議されていたが同委員会は同年一一月六日午前一〇時一分開議し、右各案件を一括して議題とし、ただちにこれらを可決した。

国労は、右採決後もますます日韓条約反対運動を強めていたが国労中央執行委員会は、総評が一一月一三日に行なう旨決定していた日韓条約反対統一行動の一還として、同月一二日夜から一三日にかけて一時間の時限ストライキを、ブロックごとに一、二個所の運転関係職場を指定して、決行する旨の指令第一〇号を同月九日各地方本部宛発した。

右指令を受けた国労旭川地方本部(旭川地本)では、一一月一三日に深川駅を拠点として指令にいう「時限ストライキ」を行なう旨決定し、旭川地本が加盟している全北海道労働組合協議会(全道労協)を通じてこれを加盟各労働組合に伝え、支援体制を依頼した。国労中央執行委員会から国労釧路地方本部)釧路地本)へ、拠点である深川駅の右行動に協力するよう指示があり、同地本委員長谷川三夫(分離前共同被告人)が旭川地本へ派遣されることになつた。

ところが、日韓条約を審議している衆議院本会議の情勢からすると、同月一二日には、日韓条約の審議が打ち切られる見通しが強まつたため、さらに同月一一日中央執行委員会から本件行動の予定を変更して一二日に繰り上げて行なうようにとの指令が急拠発せられた。旭川地本は、全道労協等を通じて、右変更を各労働組合に連絡するとともに、同月一一日午後九時ごろ、深川市蓬莱町八丁目三好旅館において、同地本執行委員長渡辺英二、同副委員長である被告人および同地本書記長高土藤男の三名が協議して、本件行動の日時、場所、方法等を次のように具体的に決定した。すなわち、本件行動参加者を三隊に分かち、第一隊は、国労旭川地本組合員約七〇〇名を主体とし、これに釧路地本組合員約一〇〇名、炭労を中心とした北空知地区労働組合協議会(北空知地区労協)所属の組合員約七〇〇名を加えて編成し、被告人および谷川三夫がその指揮にあたり、深川地区労働組合協議会(深川地区労協)所属の組合員約四〇〇名と国労旭川工場支部所属の組合員約三五〇名を合せて第二隊とし、旭川地方労働組合会議(旭労会議)所属の組合員約七〇〇名を第三隊とし、同日午後八時三〇分ごろから、第一隊は後記砂利集積場北側線路用地内に、第二隊は留萠線北側の国鉄宿舎脇に、第三隊は同保線区総合庁舎前附近にそれぞれ集結し、斗争時間を同日午後九時一〇分ごろから約一時間と定めて、第一隊は函館本線下り線南側に一〇列縦隊で、第二隊は右集結地点から移動して第一隊と対じする格好で同線下り線北側に四列縦隊で、いずれもスクラムをくみ、右線路に並列させ通過する列車に対し気勢をあげるということが決定内容であつた。この具体的決定内容につき、翌一二日昼すぎごろ前記三好旅館で開かれた合同戦術会議の席上、高土書記長から、旭川地本執行委員および右谷川三夫等に伝えられたのであるが各支援労働組合へは、全道労協を通じ電話連絡等により、現地へ行つて指揮者の指示に従うようにとの簡単な内容の連絡がなされたにとどまつた。一方、国会においては、前記特別委員会の採決の効力をめぐつて与野党の話合いがつかぬまま、一一月九日議長職権で衆議院本会議が開かれ、日韓条約案件が議題とされることになつたが、一一月一二日午前零時一八分開議後右案件はただちに可決された。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四〇年一一月一二日日本国有鉄道(以下国鉄という。)函館本線深川駅線路用地内において行なわれた前記日韓条約反対行動にさいし、谷川三夫および国労旭川地本組合等と共謀のうえ、威力を用いて函館本線下り列車の運行を阻止しようと企て、同日午後九時五分すぎごろから前記谷川三夫と共に国労旭川地本組合員等約一三〇〇名を率いて、同駅西踏切西方約一四〇メートルから二三〇メートルの間にあつた砂利集積場の北側線路用地内に入り込み、同日午後九時四〇分ごろまでの間函館本線入換一番線(通称砂利線)、同線上下線路上およびその付近において、右組合員等が、労働歌を歌い、日韓条約反対と叫ぶ等して気勢をあげながら、ほぼ西方(妹背牛方向)に向かい八列ないし一〇列の縦隊でスクラムをくんで立ちはだかるのを指揮し、おりから函館本線下り線を深川駅にむかつて進行してきた小樽発旭川行下り第一四七号普通旅客列車(以下本件列車という。)をして、同駅西場内信号機西方約一〇八メートルの地点において約一八分間、右場内信号機の東方約二七メートルの地点において約一七分間、それぞれ停車することを余儀なくせしめ、もつて、威力を用いて国鉄の右列車の運行業務を妨害したものである。

第三、弁護人の主張に対する判断

次に、<中略>弁護人は被告人等の本件所為が威力業務妨害罪に該当するとしても、これは日韓条約案件の強行採決に抗議するデモンストレーションであり、表現の自由の枠内にある行為であるから合憲的には処罰できない旨主張するので、この点を審案するに、大規模、かつ、もつとも有効な思想伝達の手段であるマスコミュニケーションを支配または駆使できないものにとつて、思想伝達の手段として集会、集団示威行為(デモンストレーション)が果す役割はきわめて重要なものであり、そのため、近代文明社会においては、表現の自由の一形態として、集会およびデモンストレーションの自由が認められている。しかしながら、この集会およびデモンストレーションのため、道路、公園等公の場所を使用する権利は絶対のものではなく、公衆の便宜と近隣の静ひつとを考慮に容れ、平和的かつ秩序ある状態で行使されることを要する。さらに、公の場所のうちには、公衆の自由な立入りを認めている場合でも、その使用目的が公衆に自由に使用させることにあるのでなく、他の目的に供することにあることがはつきりした場所や、さらに進んで、その使用目的からみて公衆の自由な立入りを認めることが好ましくない場所もあるのであり、かかる場所においては、一般公衆が集会やデモンストレーションをすることがその場所の使用目的と明らかに背馳する場合には(たとえば、公立病院の前庭、裁判所の建物内等でシプレヒコール、合唱、拍手等を伴うデモを行なつた場合等)、前記の公園、道路等公衆の自由に使うことのできる公の場所において行なう場合と比べて、集会やデモンストレーションが手段方法等において一段と制限され、あるいはまつたく禁止されることになつても、これまたやむを得ないところである。

そこで、本件についてこれをみるのに、本件行動の行なわれた場所は、公の場所ではあるが、高速交通機関のもつ危険性とその安全、正確な運行確保の必要性にかんがみ、みだりに一般人が立入ることを禁じられている鉄道用地内の、しかもその枢要部をなす線路敷設区域であるから、一般公衆が集会やデモンストレーションを行なう場合に、これを合憲的に規制することができる場所であることは疑いを容れない。したがつて、被告人らが国鉄当局の承認を得ることなく、線路用地内に立ち入り、国鉄当局および警察の再三にわたる警告を無視してデモンストレーションを行ない、その結果として国鉄の列車運行業務を妨害した以上、これを威力業務妨害罪として処罰することは何ら憲法に反するものではない。

さらに、弁護人は、本件デモンストレーションに加わつているのは国鉄労組員ならびに支援労組員であり、この集団示威運動は、国鉄の列車乗務員に職場放棄をよびかけるためのピケッティングであると主張し、一般公衆が国鉄用地内で集会やデモを行なう場合、合憲的にこれを規制しうるとしても、本件ピケッティングの場合には、政治的「ストライキ」としての憲法上の保護もあると主張する。

そこでまず、本件行動が政治的「ストライキ」もしくは「ストライキ」を勧誘するピケッティングにあたるか否かについて考えてみるに、証拠によれば、国労組合員等本件行動参加者は、それぞれの組合の指示によるところではあるが、いずれも勤務時間外に本件行動に加わつたもので、職場放棄をしたものではないと認められるし、かつ、本件行動により職場放棄の勧誘を受ける者は、列車乗務中の機関士であるが、その機関士が所属する国鉄動力車労働組合(動労)旭川地本は、国労から本件行動の支援を依頼されてはいたが、動労としてストライキをしてこれを支援するとまでは決定していなかつたので、本件第一四七号列車の機関士蝶野に対しても、前同日昼ごろ、当時の動労旭川地本執行委員渋谷から、蝶野の運転する列車が本件行動に出くわすかも知れないが、そのさいは、最大の安全運転をするようにとの趣旨の指示が与えられていたにすぎず、職場放棄をするようにとの指示はなされなかつたことが認められる。さらに、国労としては、前記指令第一〇号において、日韓条約反対のため時限「ストライキ」を行なうことを組合として決定していたわけであるが、これを支援する他の労働組合は、同じ総評さん下の組合として日韓条約反対の統一行動にのぞむとはいえ、必ずしも国労の指令第一〇号にいう「ストライキ」と同じ活動方針を決定していたとはいえないと認められる。してみると、弁護人が主張するような機関士の職場放棄が実現したとしても、これは、その所属する組合の意思決定に基づく集団的労務不提供ではないという意味において、「ストライキ」に該当しないのであり、これを勧誘する行為もストライキに随伴するピケッティングとみることはできない。

結局、本件行動を労働組合の政治的「ストライキ」の勧誘行為であることを前提として憲法上の保護を主張する弁護人の主張は前提を欠くものといわなければならない。もとより、労働組合が組合活動の一環として政治活動を行なうことは許されるところであり、一定の政治的主張を表明するために、職場放棄という形態をとることなく、職場集会や集団示威運動を行なうことも可能である。デモンストレーションに加わつた者のうち国労組合員にとつて、本件行動は右の組合活動としての職場集会にあたるとも認められるが、これを職場集会とみるにしても、同じ国鉄の建物、敷地内のうち、列車運行に支障のない他の場所を選ぶことが十分可能であつたのであるから、本件のように、ことさら線路用地を選んで集会を開き、その結果として威力により国鉄の業務を妨害した場合にこれを処罰したとしても、何ら労働組合の政治活動を制約したことにはならない。また、日韓条約反対行動を支援する労働組合の組合員が右のような集会、示威運動に同調して、あるいは、みずからの政治的意思を表明するため職場を放棄することも、もとよりありうるところであり、もし、本件において弁護人の主張するような機関士の職場放棄が実現したとするならば、これにあたるのであるが、このような場合の職場放棄は所属する労働組合の指示に基づくものでないのであるから、たとえその組合が一定の政治的主張を掲げていることを背景としてなされたものであつても、法的評価の面においては、労働組合活動としてみるべきではなく、一労働者の行為として、一般国民が行なう政治的活動と同一の原理に従つて律せられるべきものである。したがつて、本件デモンストレーションが職場集会に加えて列車機関士に対する職場放棄を勧誘するためのピケッティングとしての意味をもつとしても、鉄道用地に沿う道路などの公共的場所で行なうことが可能であつたのに、一般人がみだりに入ることを禁じている鉄道用地内でなされている以上、その行動により国鉄の列車運行業務が妨害された場合これを処罰することは憲法に反するものではない。

最後に、被告人等の本件行動は可罰的違法性を欠くと弁護人が主張するので、この点の判断をするに、可罰的違法性の有無は、本件行動により侵害された法益の大小、本件行動の目的、手段、態様、被侵害法益と、本件行動によりまもられる法益との均衡等にてらし、社会通念上容認される相当性を有するか否かによつて決せられるべきであると解するが、関係証拠によれば、被告人等は、函館本線上に特急、急行の運行がない午後九時一〇分ごろから一〇時一〇分ごろまでの一時間を選んで、本件行動を行なう旨計画し、その対象を貨物列車(第一七三号貨物列車)に限定し、一般公衆への不測の害を最小限にくいとめ、本件行動により国鉄業務が多大の影響を受けることのないように配慮したことは認められないではないが、本件行動により妨害されたものは公共性の強い国鉄業務中でも枢要の幹線の列車運行業務であつたこと、本件行動の結果、現実には、前記のとおり普通旅客列車が計三五分にわたる停車を含めて五〇分遅延する状態になり、本件行動の直接、間接の影響を受けた他列車は準急気動車を含む四本で遅延合計約二〇七分にのぼることが認められ、その侵害された法益は決して小さいものとはいえないし、本件行動の手段、態様をみると、国鉄関係者以外の労動組合員を多数含めて、一般人がみだりに立ち入ることを禁じられている鉄道用地内で、列車の運行に大いに影響をおよぼすおそれのある側線ピケの方法で行なわれたものであること、しかもその実情は必ずしも整然たる側線ピケに終始していたものではなく、再三にわたる国鉄当局や警察官の警告にもかかわらず約三五分にわたつてその行動を持続したこと等からして、本件行動は、手段、態様の点においても、また社会通念上相当性を欠いていると認められる。してみると、本件行動が日韓条約案件の強行採決に端を発するものであり、その不当性を広く世に訴え、国民各層にひろがつていた不満を強く表明した点において、それなりの評価を受けるとしても、なお、本件行動は可罰性を有するものといわなければならない。(時国康夫 早川義郎 石井一正)

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